
近年、日本のキャラクターデザインの世界で目覚ましい存在感を示しているのが、ゆるキャラに代表されるような、親しみやすく丸みを帯びたキャラクターたちです。地域活性化の旗手として、あるいは企業の顔として、彼らは老若男女から絶大な支持を集めています。一方で、かつて一世を風靡した「機動戦士ガンダム」に代表されるような、シャープでメカニカル、そしてどこか硬質な「角ばった」キャラクターたちも、その時代のヒーローでした。
近年のトレンドを語る上で、丸みを帯びたキャラクターたちが特にスポットライトを浴びているように感じられます。この「丸み」と「角ばり」という対照的なデザインが持つ魅力と、その流行の背景について、私なりの考察をまとめてみました。
なぜ今、「丸み」がもてはやされるのか?
丸みを帯びたデザインには、人間の心理に訴えかけるいくつかの強力な要素があります。
安心感と親しみやすさ
角がない丸い形は、本能的に安全で柔らかいものとして認識されます。赤ちゃんや動物の丸みを帯びた体つきが愛されるように、キャラクターにおいても安心感や優しさ、そして「触れたい」と思わせる親しみやすさを生み出します。ゆるキャラが地域や企業と人々をつなぐ役割を果たす上で、この親しみやすさは非常に重要です。
「カワイイ」文化との親和性
日本特有の「カワイイ」文化において、丸みは重要な要素の一つです。大きな丸い目、ふっくらした頬、全体的に柔らかな輪郭は、「守ってあげたい」「そばに置きたい」といった感情を呼び起こし、キャラクターの魅力を高めます。
情報過多社会における癒やし
複雑化し、情報過多な現代社会において、シンプルで丸いデザインは視覚的なノイズが少なく、見る人に安らぎや癒やしを提供します。ゆるキャラの素朴さや、どこか力の抜けた雰囲気は、ストレスを感じやすい日常からの束の間の逃避として受け入れられている側面もあるでしょう。
覚えやすさと汎用性
丸くてシンプルなデザインは、子供から高齢者まで誰にでも分かりやすく、覚えやすいという利点があります。また、グッズ展開やデジタルメディアなど、多様な媒体への展開もしやすいという実用的な側面も、その普及を後押ししています。
かつての「角ばり」が象徴したもの
一方、ガンダムのような角ばったキャラクターは、その時代において異なる価値観や魅力を象徴していました。
力強さと先進性
シャープなラインやメカニカルなディテールは、力強さ、精密さ、そして未来的なテクノロジーを連想させます。これは、特にSFやロボットアニメといったジャンルにおいて、リアリティや説得力、そして子供たちの憧れとなる「かっこよさ」を生み出す上で不可欠な要素でした。
緊張感とスペクタクル
角ばったデザインは、丸みに比べて緊張感や硬さを表現しやすいです。これは、戦闘シーンやドラマチックな展開を描く上で、キャラクターに迫力や存在感を与える効果があります。
時代の反映
ガンダムが登場した時代は、高度経済成長を経て科学技術への期待が高まり、より強く、より高性能なものへの憧れが強かった時代とも言えます。角ばったメカデザインは、そうした時代の気分を反映していたとも考えられます。
トレンドの「シフト」はなぜ起こったのか?
では、なぜ近年、かつて主流だった「角ばったかっこよさ」よりも「丸みを帯びたカワイさ・親しみやすさ」がより広く注目されるようになったのでしょうか。
これは、単にどちらかのデザインが良い・悪いという話ではなく、キャラクターが活躍する「場」や、社会がキャラクターに求める「役割」が変化したことに起因していると考えられます。
かつては、テレビアニメなどを通じて特定の物語世界の中で活躍するヒーローやロボットといった、ある種の「非日常」を体現するキャラクターが大きな注目を集めました。そこでは、力強さやかっこよさが求められたため、角ばったデザインが輝きを放ちました。
しかし近年は、キャラクターがより日常に近い場所、例えば地域のイベント、企業のプロモーション、商品のパッケージ、SNSでのコミュニケーションといった場面で活躍する機会が増えています。こうした場面では、威圧感や緊張感のあるデザインよりも、人々に寄り添い、共感を呼び、「話しかけやすい」「応援したい」と思わせるような、安心感や親しみやすさが重視されるようになっています。ゆるキャラブームは、まさにその象徴と言えるでしょう。
また、現代の社会は、過去に比べて多様な価値観が認められるようになり、単一の「強さ」や「かっこよさ」だけでなく、癒やしや個々の「好き」を追求する傾向が強まっています。丸みを帯びたキャラクターは、そうした多様なニーズに応えやすく、特定のファン層だけでなく、より幅広い層に受け入れられる可能性を秘めています。
まとめ
キャラクターデザインのトレンドは、その時代の社会情勢や人々の価値観、そしてキャラクターが担う役割を映し出す鏡のようなものです。かつての角ばったキャラクターが「力強さ」や「未来」を象徴したように、近年の丸みを帯びたキャラクターは「安心感」「親しみやすさ」「癒やし」といった現代人が求めるものを体現しています。
もちろん、角ばった「かっこいい」キャラクターがその魅力を失ったわけではありません。彼らは今も、特定のジャンルや熱狂的なファンの中で確固たる人気を誇っています。しかし、より広範な人々に向けたメッセージを発信したり、日常生活の中に溶け込んだりするキャラクターにおいては、丸みを帯びたデザインが現在のトレンドとして中心的な役割を果たしていると言えるでしょう。
「丸み」と「角ばり」、それぞれの魅力は、これからも様々な形で私たちの心を捉え続けるはずです。そして、次にどのようなデザインのキャラクターが時代の寵児となるのか、その変化を見るのもまた楽しみの一つと言えるでしょう。